微量栄養素・セレンの欠乏〈も〉あまたある重症化の原因の1つ〈かも知れない〉

 まず、真っ先に述べておきたいのは、現在、日本国内で生活している限り、セレン欠乏症の恐れはないということだ。だから、以前、「魚の血合い肉にはセレンが豊富」というタイトルでこの情報を報じた『みなと新聞』の記事を見て笑ったのである。

 但し、「愛国者」には残念な話だが、これには、北米から輸入されている農産物(小麦・大豆)や畜産物が大きく貢献している。魚介類に豊富であることは〈我らが〉〈愛すべき〉『みなと新聞』がアピールしてくれている通りだが、極端な魚介類嫌いであっても日本国民に欠乏症が生じないのは、この理由による。


https://academic.oup.com/ajcn/article/111/6/1297/5826147

⇧『米国臨床栄養学雑誌』に投稿されたレター(論文ではない)がこれである。最初に大規模な感染と発症が確認された湖北省(武漢市を含む)だが、、、土壌中のセレン含有量が極端に多く、過剰症の事例が度々報告される恩施市でむしろ治癒率が有意に高かったというのである。そして、この傾向は、対象を「中国」全土に拡大しても成り立つ可能性があるとのことだ。確かに興味深い内容である。


https://academic.oup.com/ajcn/article/112/2/447/5863848

https://academic.oup.com/ajcn/article/112/2/448/5863847

⇧このレターに対して、他の研究者から好意的なコメントが寄せられ(生体におけるセレンの機能の観点からは、大いにあり得そうだ、という趣旨)、レターの著者がそれに謝意を述べつつ、その後の調査結果を追加報告するというやり取りがあった。

 双方の認識に共通しているのは、、、

※セレンが欠乏すると、セレノプロテイン類の1つであるGP1(グルタチオン・ペルオキシダーゼ・1)が作られにくくなる(優先順位が低いらしい)。

※GP1は抗酸化物質としての側面を持ち、免疫機能が過剰に働きすぎるのを抑制する役割を果たすので、GP1の不足は、免疫反応の暴走を招き易い。(私はここで、一頃流行語になった、「サイトカインストーム」を連想してしまった。しかし、それと同時に、「他の抗酸化物質をたくさん摂取している人とそうではない人、という条件でデータを補正したらどうなるのだろうか?」という疑問も当然沸き起こってくる)。

※宿主の体内で強すぎる酸化ストレスに曝されたウイルスが、毒性を強める形で「進化」した例が存在する(これは以前のエントリーで紹介したが、興味のある方は、「コクサッキーウイルス」∪「克山病」で検索してみて頂きたい。克山病は栄養学の入門書にも載っている有名な事例なので知っていたが、感染症絡み、しかもウイルスの進化と関わる問題だとは、ごく最近まで知らなかった!)。

 さて、気になる追加の調査結果だが、、、介入研究のデータから推定すると、一日当たりのセレン摂取量が50μgを越える辺りで、GP1の合成がほぼMaxに達するらしい。ところが、世界各国の実際の摂取量にはかなりのばらつきがあり、日本などでは、少ない人でさえ50μgを大きく上回っているのに対して、欧州諸国では、軒並み50μgを割っている。「先進国」でありながら欧州諸国が無残な姿をさらしているのには、こんな要因も絡んでいるのではないか?、、、というのが、この研究者たちの懸念であるらしい。

 もちろん、セレンの摂取量が充分であれば重症化を避けられるとは限らない(アメリカやブラジルを見よ!)。だが、セレンの摂取量が不足していれば、リスクを高める可能性はありそうである。


 素人ながら様々な情報に接してきて感じるのは、、、今までのところ(今後はどうかわからない)日本で重症化率がさほど高くないのは、いくつもの条件がたまたま満たされていて、それが《重層的に》働くことによって《幸運にも》得られた結果なのではないか、という印象である。この「条件」には、マスクをすることを耐え難い抑圧であるとは思わない気質や、状況に応じて付け外しするのが面倒くさいので付けっぱなしにするといったルーズささえ含まれる。


 だから、たとえ、優秀な研究者の提唱する概念であっても、「ファクターX」などという粗雑で幼稚な言葉を使う気にはなれない。それは「単一の要因が決定打になっている」という固定観念を強化する、タチの悪い洗脳装置のように思えてならないからである。