【チョットくどいか?】セレン及び抗酸化物質

 前のエントリーで見たように、セレンを構成要素とするGPX1には抗酸化作用があり、免疫反応が暴走するのを防ぐのに一役買っているようだ。

 しかし、ビタミンCやビタミンEをはじめとして、抗酸化作用を持つ物質は他にもさまざまなものがあるのだから、そちらが充分に摂取されていれば良いのではないか、という疑問も、当然沸き起こってくる。

 ちょうど、それに応えるかのような論文が『米国臨床栄養学雑誌』に掲載された。

 いやあ、何だか気を使ってもらったみたいで申し訳ないなあ(⇦「世界はお前を中心に回っているんじゃない!」@金八っつぁん)。

 残念ながらcovid-19絡みの内容ではないが、心血管疾患や総死亡率との関連を探る、ごくオーソドックスなものである。論文のタイプは介入研究(RCT)のメタアナリシスで、エビデンス・レベルはかなり高いと見て良い。

 興味深いのは、セレン単体や抗酸化物質単体、更には、抗酸化物質の複合体を用いた場合でも、心血管疾患及び総死亡率に有意差が見られなかったのに対して、抗酸化物質の複合体にセレンが加えられていた場合に限って、有意差が生じている点である。これを見ただけでも、単一の条件が決め手になって結果が生じるなどという発想が危ういものであることが理解出来るだろう。

 そして、注意しなければならないのが、編入された個々の研究論文の性質である。

 例えば、文献をざっと眺めた限りでは、欧州諸国で行われた介入研究が多く、これがバイアスを産んでいるかもしれない。なぜなら、前のエントリーで触れたように、欧州諸国では国民のセレン摂取量が低いため、GPX1の体内合成がMaxに達していない人がかなりの数にのぼると推定されるからだ。こういう場合は、「実施地域」と「規模」が一覧できるような表があるとありがたいのだが(バブル・プロット?)、残念ながら、この論文では、その観点からの分析は行われていない。

 まあ、いずれにせよ、ビタミン類とは違った角度からビタミン類と相補うようにして人体を酸化ストレスから守ってくれているのは間違いないことであるし、(ここは重要なことだが)日本国内で食生活をおくっている限り、不足を心配する必要がない、というのは、大きな安心材料であろう。

 

Selenium, antioxidants, cardiovascular disease, and all-cause mortality: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials

The American Journal of Clinical Nutrition, Volume 112, Issue 6, December 2020, Pages 1642–1652, https://doi.org/10.1093/ajcn/nqaa245