『みなと新聞』おそるべし〈笑〉

 怒りを通り越して、呆れるのも通り越して、腹の底から笑わせてもらった。

 確かに、魚の血合い肉にはセレンが豊富ではある。だが、他の国はともかく、日本国内で普通の食生活をおくっている人がセレンを欠乏させているなどということは、まず、考えられないから、わざわざ血合い肉を摂取する必要などない。魚介類全般に、広く含まれているのだ。

 それに、たとえ極端な魚介類嫌いであっても、北米産の農産物(小麦や大豆)や畜産物(牛肉や豚肉)は、イヤでも(?)摂取している筈だ。北米の土壌はセレンが比較的豊富なので、そこで育った農産物や、それを飼料に使った畜産物には、充分な量のセレンが含有されている。わざわざ記事の見出しで血合い肉に豊富であることをアピールする必要など、何処にもない。

 まあ、癖が強くて、人によってかなり好き嫌いの分かれるであろう血合い肉を商品として購入してもらうのは、難しいことなのだろう。しかし、その販促キャンペーンのために利用する情報が、よりによってコレかよ、と思うと、おかしくておかしくてたまらない。私のような好事家を別にすれば、こんな雑誌、専門の研究者以外は読まないだろうとタカをくくっていたのだが、考えが甘かったようだ〈笑〉。

 ヤフー・ニュースで紹介されていたのだが、短いものなので、以下に見出しと本文を引用しておく(リンク切れ対策)。

 ※ 本文中に「4月28日に掲載された論文によると」との記述があるが、正確には論文ではなくて、編集者宛のレターである。緊急性の高い問題なので、このような形で「とりあえず、情報を共有してもらう」ことを重視したのであろう。


 魚の血合い肉がコロナ弱毒化? 米で論文 セレンに可能性

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5/18(月) 11:40

配信

 マグロやブリの血や内臓に多く含まれるセレンという成分が、新型コロナウイルスの病原性を弱らせる可能性がある―。米国臨床栄養学会誌で4月28日に掲載された論文によると、セレン摂取量と関係性が強い人の頭髪に含まれるセレンの量と、新型コロナ患者の治癒率を見比べたところ、セレン含有量が高い地域ほど治癒した人の割合も高いという相関性が有意に認められた。データ不足などにより「関連付けは十分に頑強ではない」と注釈をつけつつ、今後、関連データが集まるにつれ、セレンの効果を検証できると結んでいる。

 論文は、中国の非政府サイトのデータを基にしたもの。大規模感染のあった武漢市を持つ湖北省は治癒している人の割合が他の省より低かった。一方、髪に含まれるセレンの量が平均の4~6倍ほどある同省恩施市だけは省内他地域と比べ、治癒率が2・8倍と高かった。

 湖北省以外の患者の死亡率は0・6%。ただセレンの量が湖北省(恩施市除く)の半分未満である黒竜江省では、患者の死亡率が2・4%と高かった。

 論文著者らは、患者の年齢や基礎疾患、地域ごとの医療体制の充実度などのデータがそろっていないこと、今回の分析に使ったデータに一部古いものが含まれることなどを指摘。研究の解釈には不確実な部分が多いため、今後も新型コロナの重症度とセレンの関係性を研究していく必要があると論じた。

 セレンはマグロやブリなどの血や血合い肉、内臓に豊富な成分。既に2型糖尿病やがん発症のリスクを下げるなど機能性が指摘されている。ただし消費者庁は3月10日時点で、新型コロナの特性が明らかでない段階からセレンの予防効果をうたう健康食品について、誇大広告の恐れがあると注意喚起をしている。

[みなと新聞2020年5月18日付の記事を再構成]