以下の文章はネット上で度々引用されているので、目にしたことのある人は多いのではあるまいか?
いろいろと問題含みなので、少々コメントする。
「第一に、銀行は、日銀に設けられた日銀当座預金を通じて、国債を購入しています。集めた民間預金を元手にして購入しているわけではないのです。ですから、銀行の国債購入は、民間預金の制約をいっさい受けません。」
確かに《銀行は》集めた民間預金を元手にして国債を購入してはいない。自ら信用創造した預金で購入するのである。そして、この新たに信用創造した預金を国庫に送金した証として、日銀当座預金が移動する。
ちなみに、銀行以外の購入者は、集めた民間預金を元手にして国債を購入する。この際も、預金を国庫に送金した証として日銀当座預金が移動する。
「では、この銀行の「日銀当座預金」は、どこから来たのでしょうか。それは、もとはと言えば、日銀が供給したものなのです。
さて、そうだとすると、銀行による国債購入というのは、日銀が政府から直接国債を購入して当座預金を供給すること(日銀による政府への信用創造)、いわゆる「財政ファイナンス」とほぼ同じということになります。もっとも、財政ファイナンスは、法律(財政法第五条)により原則禁止とされています。しかし、銀行による国債購入も、結局のところ、日銀が供給した当座預金を通じて行われているのですから、財政ファイナンスも同然でしょう。
「財政ファイナンスは、ハイパーインフレになるから、絶対にやってはならない!」とよく言われます。しかし、銀行の国債購入という事実上の「財政ファイナンス」は、普通に行われているのです。でも、ハイパーインフレなんて起きていませんね。」
(中野剛志・2019 『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編』)
目からウロコが落ちるどころか、目にウロコが貼り付いてしまいそうな危機感を覚える〈笑〉。
思うに、この方は、日銀当座預金というモノが、日銀から口座開設者に対して、(口座開設記念キャンペーンのプレゼントとして?)タダで与えられるモノだと思い込んでおられるのではないか?
日銀からタダで与えられたモノで国債を購入したのならば、それは確かに、財政ファイナンスと呼んで差し支えない行為であろう。
そして、日銀当座預金は、間違いなく、日銀が発行したモノだ。
しかし、である。
日銀は、日銀当座預金をタダでプレゼントするほど甘くはない。発行にあたっては、必ず、《適格担保》の提出を要求する。
この《適格担保》とは、口座開設者が所有する資産の内、
1.価値が下落したり、無価値になってしまうリスク
2.売りたい時に売れなかったり、買いたい時に変えなかったりするリスク
という二つのリスクがない(あるいは、極めて低い)資産である。そのような高品質の担保と引き換えでなければ、日銀当座預金は発行されない。
日銀の口座に日銀当座預金があるということは、事前に高品質の担保を差し出して、その代わりに日銀当座預金を発行してもらったということを意味している。
さて、これは果たして、「財政ファイナンスも同然」などと表現して良いものだろうか〈笑〉?
しかも、この日銀当座預金は、口座開設者同士、或いは、口座開設者と政府の間で預金を移動させるためのツールとして制度化されているものである。上記の引用部分を見る限りでは、この辺の「基礎知識」すら理解されていないように思えるのだが、どうなのだろうか?