建部説有害論《銀行預金を借りた証に日銀当座預金が移動するのです》

「日本政府が国債を発行し、銀行から日銀当座預金を借りる。

 日本政府は、借り入れた日銀当座預金を担保に、銀行に「振込指示」をする。

 持続化給付金や特別定額給付金などで、銀行は皆さんがお持ちの預金口座の残高を増やす。この時点で、マネーストックが拡大。

 銀行は政府指示により「負債」である銀行預金を発行させられた(増やさせられた)ため、政府に決済を依頼。日銀が、政府保有の日銀当座預金を銀行に移し(実際には、政府側の預金の数字を減らし、銀行側を増やす)決済。

 というわけで、政府が国債を発行して支出すると、国民の銀行預金の口座残高が増え、マネーストックは拡大します。」

https://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-12617434438.html

⇧一見して、建部正義氏の論文中にある記述をアレンジしたものと分かるが、そもそも、その建部論文の記述そのものに問題がある。

 以前のエントリーでは控えめに疑義を提出したが、ここでは、なんと!(←いや、別に強調しなくていいから)積極的に、否定的な見解を述べようと思う。

 とは言え、論旨自体は以前と変わらない。

 要するに、銀行は、国債を購入する時点で購入額と同額の銀行預金を創造しており、その銀行預金を(日銀内に設けられている)政府の口座に振り込んだ証として、それに相当する額の日銀当座預金が移動しているだけだ、という、ごくごく常識的な見方である。

 更につけ加えるならば、これも、以前の(別の)エントリーで控えめに指摘したことなのだが(←ああ、俺って何て控えめで奥ゆかしい奴なんだろう)、建部論文を読むと、発行された国債が漏れなく銀行によって購入されるかのような印象を受けるが、これは、事実とは懸け離れている。

 発行された国債を初期段階で購入する、いわゆる日本版プライマリーディーラーの内、銀行はメガバンク二行のみ。その後、セコンダリー市場での売買が行われるが、生損保や年金機構、さらには(規模は小さいが)個人向け国債などの需要もあるため、必ずしも銀行が購入するとは限らない。当然のことながら、銀行以外の購入には信用創造が伴わないので、既存の預金で買い入れることになる。建部論文は、この点でも誤解を招きやすい。

 こうした(歪んだ)見方を更にこじらせて、「信用創造の第2の経路」などという珍学説を妄想するに至る人もいる。それによると、国債を購入した銀行ではなく、公共事業を受注した企業が口座を開設している銀行が信用創造を行うのだそうだ。上に引用した記述と同様、建部論文を検討もせずに盲信した上で、ヘンなオリジナリティを発揮している。

 こんな有様を見ていると、建部論文そのものが有害ではないかとさえ思えてくる。建部氏自身は「庶民の味方」で「良心的」な人物なのだろうが(「しんぶん赤旗・日曜版」に寄稿していたので、まあ、そういう人なのだろう)、しかしだからといって、信用創造を歪めて解釈するきっかけを作った点を免罪してよいとは言えないだろう。

 この論文、アカデミズム内では、きちんと批判的に検討されているのだろうか?