ウイルスが毒性を増加させる形で変異したと考えられる例

 以下は、オレゴン州立大のライナス・ポーリング・インスティテュートによる微量栄養素《セレン》についての総説からの引用である。この世には神様か仏様のような方がいるらしく、日本語に訳してくださっているので、そちらから紹介しておく。

 しかし、ライナス・ポーリングならば、語学力バッチリの信奉者が結構いるだろうなァ〈笑〉。

http://lpi.oregonstate.edu/book/export/html/2426

「ウィルス感染

セレン欠乏は,ある種のウィルス感染症の毒性や進行を増強すると考えられる。セレン欠乏に起因する酸化ストレスの増加は,いくつかのウィルス遺伝子の突然変異や発現の変化を誘発する可能性がある。セレン欠乏マウスに,比較的無害なコクサッキーウィルス株を接種したとき,ウィルスをさらに有害化させるウィルスゲノムの突然変異を発生させ,心筋炎といわれる心筋の炎症を誘発した。一度変異すると,このウィルスは,毒性の増強が,宿主の免疫系に及ぼすセレン欠乏の効果というよりも,むしろウィルスの変化によることが確認されたことから,セレン欠乏でないマウスにも心筋炎を誘発する。細胞質型(古典型)グルタチオンペルオキシダーゼ酵素を欠損したマウス(GPx-1ノックアウトマウス)の研究から,細胞質型グルタチオンペルオキシダーゼが,以前は良性であったウィルスのゲノムにおける突然変異に起因する心筋炎に対して,保護作用を持つことが確認された。セレン欠乏症は,グルタチオンペルオキシダーゼ活性を低下させ,ウィルスゲノムの酸化的損傷と突然変異率を増加させる。数名のケシャン病患者の血液から単離されたコクサッキーウィルスは,人におけるセレン欠乏に関係する心筋症発症の補助因子であることが示唆されている (21)。」

 宿主を殺してしまっては元も子もないから、ウイルスは毒性を弱めるような形で変異していく筈だ、、、などという甘い考えは、ゆめゆめ持たないことだ。