昨今の混乱に乗じて、マイナス金利の導入を唱えている人がいるらしい。私など、銀行の経営状態を悪化させて、手数料の値上げを促すだけではないか、などと思うのだが、何かメリットがあるのだろうか?
https://himaginary.hatenablog.com/entry/20200512/the-case-for-deeply-negative-interest-rates
ところで、このケネス・ロゴフなる人物、以前発表した論文で、大きな騒ぎを起こしていたようなのだ。
その論文によると「政府債務が対GDP比で90%を超えると、成長率が3.2%から-1%に低下する」とのことなのだが、データの扱いの間違いを大学院生に指摘され、他の経済学者たちも乱入しての論戦になったあげく、「成長率は2.2%に低下する」という大学院生側の主張を認めざるを得ない状況に追い込まれたらしい。ただ、感心なことに、その後、改めてデータの扱いを検討して、改訂版を出版したという。どうやら、この改訂版は、邦訳も出ているようだ。
では、この大学院生側の主張およびロゴフによる改訂版の内容は信頼できるものだろうか?
残念ながら、そうではない。
ここで用いられているデータは、介入研究のデータではなく観察研究のデータなので、統計ソフトの使い方がどうのこうのという以前に、因果経路をきちんと検討しておかなければならなかったのである。
この場合なら、
①政府債務が増えると
②何らかの理由で(一つとは限らない)
③成長率が低下する
という経路の他に、最低でも、
③成長率が低下したから
④何らかの理由で(一つとは限らない)
①政府債務が増える
という経路を想定しておかなければならない。それができていて初めて、統計ソフトを使う意味があるのだが、ロゴフも大学院生も、この基本を踏まえていたかどうか、怪しいものである。
最後に、ちょっと無責任に放言すると、「売り上げが低迷しているから経費を抑えろって上司は言うけど、そう簡単にスパッと削れるもんじゃないよなァ」などと愚痴をこぼした経験のある社会人なら、①→②→③の経路より③→④→①の経路の方に真実味を感じると思うのだが、「経済学者」はそうじゃないのだろうか?