「銀行が保有している分」と言っているではないか

 人の発言を歪曲する相手に正しい理解を求めることは難しい。以下は、その格好のサンプルである。かなり古い「ニュース」だが、それ故にこそ、より望ましい判断のための材料として(今なら)冷静に

見つめ直すことができるのではあるまいか?


 

(引用開始)

  令和ピボットニュース(2019年5月25日号)

(中略)

■ 以下の動画は、5月23日の参議院・財政金融委員会の模様です。

 

西田昌司 財政金融委員会質問(2019.5.23)

https://www.youtube.com/watch?v=W61Srkam7xE

(中略)

また、西田議員がMMTにも関連する重要な質問をしています。

その結果、日銀の雨宮副総裁は「国債発行は国民の預金を(吸い上げるのではなく)増加させる」ということを、そして麻生大臣は「国債は『政府の借金』であって『国民の借金』ではない」ということを、しぶしぶ認めていますのでぜひご覧ください。(引用終了)

 

 はい、ご覧になりました(←返事の仕方がおかしいよ!)。

 いやはや、これはひどい歪曲である。

 

 雨宮副総裁(日銀)は、「銀行が保有する分」と正しく答えているではないか!

 内生的貨幣供給論を前提とするならば、民間金融部門(銀行)が購入する際には信用創造が伴うためマネーストックが購入額の分だけ増加し、非金融部門の場合は信用創造を伴わないため既存の預金で買い入れる形になることは明らかである。

 ところが、質問者の西田議員は、ごく少額の個人向け国債の話を持ち出して、非金融部門の購入額が微々たるものであるかのような印象を与えた上で、国債の発行額の大半が民間の資産の増加につながるという自説に話を誘導しようとしているのだ。生損保や年金のことを知らないわけはないだろうに、これはひどい

 しかし、さらにひどいのは、上に引用した令和ピボットニュースの文面である。あろうことか「国債発行は国民の預金を(吸い上げるのではなく)増加させる」ということを(中略)しぶしぶ認めていますので」などと、国債発行額がそのまま国民の預金の増加になるかのような方向に話を更にねじ曲げているのだ。そんなことは、発行した国債をすべて銀行が買い入れ、その金額を政府が直接国民の預金に振り込みでもしない限り成り立たないことは明らかであろう。

 かつての冷戦期の西側諸国では、増加した分の企業利益は(若干のタイムラグをおいて)人件費と設備投資の増加につながっていたから、政府支出の増加をとりあえずの目標にすることにも正当性があった。しかし現状では、企業は、増大した分の利益を、対外直接投資や配当金に回す可能性が極めて高いのだ。この点についての改善策を示すことなく、政府支出を増やしさえすれば良いなどと主張するのは、ほとんど子供の振る舞いである。

 どういう意図があるのかは知らないが、こんな不誠実な歪曲をする人物の発言に信を置く気には、どうしてもなれない。


 上に引用したニュースの文面、文責は誰にあるんだろうか?