腹部肥満のシェフに賛同されても〈笑〉 EurekAlert! Science News(記事の紹介)

 発展途上国ならいざ知らず、先進諸国であればとっくの昔に出ていてもいい筈の発想が、今頃になってようやく公表されたようである。遅いよ〈笑〉。

https://www.eurekalert.org/pub_releases/2021-04/tuhs-tts040121.php

 確かに、人体が必要とする栄養素は40種類を超えており、しかも、そのひとつひとつに対して適切な量を推定するとなると、それだけでも大変な仕事ではある(*1)。

 それに加えて、どの食材をどのぐらいの量、どのように調理して摂取すれば適切な範囲に収まるかを、ある程度シミュレーションする必要もあるだろう。想像するだけでも気が遠くなる。

 しかし、それに取り組もうという意志の持ち主でなければ、一国の食糧政策に関わるべきではない、、、のかも知れない。きつい言い方ではあるが。

 私はあまり詳しくないし、詳しく知りたいとも思わないのだが、とある国では、歴とした省庁が、自国の食糧自給率を〈カロリーベース〉と〈生産額ベース〉の2種類で算出・公表し、仕事をしたつもりになっているそうだ。しかし、前者の基準は〈空腹ボケ〉、後者の基準は〈平和ボケ〉と評すべきだろう(*2)。

 似たり寄ったりのアバウトな基準ではあっても、米軍では〈タンパク質ベース〉とでも呼ぶべき発想が重視されている(いた?)とおぼしい。これは、単に兵士の体格や運動能力を向上させる目的のためだけではなく、占領地の住民を飢餓に陥らせないためという目的もあってのことだ(*3)。とはいえ、これは、必ずしも人道的な見地から重視されていたわけではなく、占領地で深刻な飢餓が発生すると、住民がこぞって敵側に寝返ろうとするので、それを予防するという意味合いが強いのである。

 ところで、この「栄養安全保障」という発想である。

 「食糧安全保障」という基準を質的に向上させたものとして評価できるので、有名な料理人が賛同者として名乗りを上げた、などというのは、望ましいニュースの筈だ。しかし、記事中の写真を見ると、どうしても喜ぶ気にはなれない。「あなたは、まず、自分自身のカロリー過剰を何とかしたらどうですか?」という感想が、まず最初に浮かんできてしまうのである。

 これって、余計なお世話なのだろうか?


*1 我が国では『日本人の食事摂取基準』が5年ごとに改定・公表されている。

*2 この内、カロリーベースの食糧自給率という指標は、戦中・戦後の食糧難を経験した最後の世代が、農水省を引退する間際に遺していったものとおぼしい。昔からある指標だと思っていたのだが、調べているうちに、意外と新しく制定されたものであることに気づいて驚いた記憶がある。

*3 今でもドラッグストアの健康食品コーナーで見かけるクロレラは、日本人研究者が植物性タンパク質の供給源として、細々と研究していたものである。これに目をつけ、大量に培養する方法を確立するための研究費用を提供したのが占領軍(米軍)だというのが興味深い。